コラム

 公開日: 2014-10-28 

最近の「事件簿」から

 ジャニーズ事務所の有名タレントが、女性の携帯電話を一定期間使用不能にしたとして、器物損壊の疑いで書類送検された…との報道がありました。私はこの報道に接して、幾つかの興味深いポイントがあると感じました。

 まずは、女性から携帯電話を取り上げた行為が「窃盗」ではなく、何故「器物損壊」なのかという点です。相手の占有を奪う行為ですから、ストレートに「窃盗」だと感じるのが通常ではないでしょうか。しかし、窃盗罪の成立には「不法領得の意思」(=権利者を排除して、他人物を自己所有物と同様にその経済的用法に従って利用・処分する意思)を必要とするのが判例・通説なのです。

 この事件では、女性の携帯電話を「その経済的用法に従って利用・処分する」ことが目的ではありません。あくまで動画を撮らせない(あるいはすでに撮られた動画を消去する)目的で相手の携帯電話を取り上げているのです。ですから、この場面では「不法領得の意思」を欠き、したがって窃盗罪は成立せず、器物損壊(あるいは隠匿)の罪に問えるだけ…ということになるわけです。

 ところで、「書類送検」という言葉は、実は法律用語ではなくマスコミによる造語であり、これに対置されるのが「身柄送検」という言葉です。逮捕された被疑者について司法警察員が「留置の必要あり」と判断するときは48時間以内に検察官に送致しなければいけません。この検察官への送致手続を「送検」と呼びますが、単に「送検」と言うと「身柄送検」を指しますので、これと区別するため、身柄を拘束されずに書類や証拠物だけが検察官に送致される場合を「書類送検」と呼ぶようになったのです。マスコミの造語を私たち法律家が普通に使うようになった珍しい事例です。

 さて、この事件は「不起訴」になる見込みだ…と報道されています。その理由はすでに関係当事者間で示談が成立しているからです。器物損壊罪は「親告罪」(被害者の告訴が起訴の要件)ですから、示談が成立し被害者側が告訴をしない(あるいは既にしていた告訴を取り下げた)場合、検察官は被疑者を起訴することができず、不起訴にするしか選択肢がないのです。この種の事件では、ともかく示談を成立させることが最優先であり、ジャニーズ事務所が法外な示談金を支払った…とのウワサが出ることにも「それなりの理由」があるわけです。

 最近は、いつでも誰でも、スマホや携帯電話で写真・動画が撮れますし、これをSNSやTwitterなどに簡単に投稿できますから、政治家や芸能人などの「有名人」にとっては、そういったネット投稿が「致命傷」になることもあり得ます。ネット投稿はいったん流れてしまうと、これを完全に消去することは不可能です。何処かで誰かがその記事等をコピーし、それがまた別ルートで流されるという形でネット上にどんどん拡散してしまうからです。

 そうすると、今回、女性の携帯電話を取り上げ、最大のピンチとも言うべき動画の「ネット拡散」を未然に防いだ行為は、たとえ「正当防衛」とは言えなくとも「過剰防衛」くらいの評価は可能かも知れません。私自身は、「被疑者」とされた有名タレントのことを、実は仲間の最大のピンチを救った「ヒーロー」ではないのか…と勝手に考え、不謹慎にも「ナイス・アシスト!」などと心の中でつぶやいてしまう次第です(笑)。

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