コラム

 公開日: 2010-02-05 

心の病の回復過程について-「ダイヤモンドの心を見つめる医療⑮」-


心の病の回復過程について、押さえておくべき大切な考え方があります。
それは
    『3歩進んで2歩戻る』
という考え方です。

一般に、心の病において「あるときから急に治った」というようなことはまずありません。
一時的に良くなったように見えても、しばしば症状や問題行動をぶり返すものです。

それは『慣性の法則』が働いているからです。
心の病では基本的に、不安や恐怖感などマイナスの思いに囚われた心の傾向性があります。
それが薬による治療であったり、人の言葉や関わりであったり、ときには何かある出来事に遭遇したりすることで、思いがプラスに転じることがあります。
すると、周囲にいる人たちはそれを見て安心し、「本当に良くなったね。よかった。これからは今までの分も頑張らないとね」といったような声かけをします。

しかし、心の病の本質を知ったなら、簡単にそうした声かけはできません。
それは、ある程度の期間マイナスの思いに囚われていたものが一瞬にして完全に変わるということは極めて稀なことだからです。
大抵の場合、一時的にプラスに転じたように見えても、時間とともに再びマイナスの思いがよみがえり、症状や問題行動が再燃してきます。
プラスの方向にギアを入れても、長年の間に勢いのついたマイナスの思いの傾向性には慣性の法則が働いており、すぐには止めることはできません。
マイナスの思いは、気を緩めるとすぐに出てくるものなのです。

ですから、心の病の回復過程においては一見、経過が順調に見えても、それを鵜呑みにしてはなりません。
慣性の法則が働き、症状や問題行動をぶり返す可能性があることを知っておかなくてはならないのです。

もしこうした法則を知らないと、いろいろなところで失敗をします。

例えば、良くなったことで周囲の人も期待し、本人も順調に行くだろうと思っていたにもかかわらず、ぶり返して状態が再び悪くなると、そのショックは非常に大きなものがあります。
ショックによる挫折感、絶望感というマイナスの思いが、もともと持っていたマイナスの思いを引き寄せます。
そして、そのマイナスの思いに支配されることで回復の可能性をなくしていくのです。

また、順調に見える回復過程の中で、実は本人だけが「本当に大丈夫だろうか。そんなに順調にやっていくだろうか」という不安を持っていることがあります。
それを周囲の人たちが理解せず、「これからは期待しているからね。頑張ってもらわないと」というような励ましをすると、その言葉は大きなプレッシャーとなって本人の中にある不安を増大させます。
その結果、その不安というマイナスの思いが症状や問題行動を再燃させる引き金となるのです。

心の病の回復過程では慣性の法則により、症状や問題行動がぶり返す可能性が高いということを知ることです。
その上で目指すべき回復過程を『3歩進んで2歩戻る』ということに置くことが本当の回復に導く方法です。

もしこの考え方を知っていたなら、回復過程で失敗することはありません。
一時的に思いがプラスに転じて良くなったように見えたときであっても、
「そのような思いを持てるようになったことはとてもよかったね。
一時的にでもそうした思いを持てるようになったことは力だと思う。
けれども、またダメになったり、ぶり返したりすることがあるからね。
大事なのは、そのときにすべてがダメになったと思わないこと。
一旦、プラスの思いを持てるようになったのだから、そこでダメと思わない限り、また必ずプラスの思いに戻れる。
治るときには『3歩進んで2歩戻る』という考え方を持つことよ。
たとえ戻ったとしても2歩でとどめることができれば、確実に「3-2=1」歩ずつ前進していけるからね。
それでいいんだよ」
あらかじめこのように話すことができます。

すると、本人の中には
    「もしマイナスの思いが出てきたり、症状や問題行動が再燃したりしても、それは想定範囲内のことで大丈夫なんだ」
という安心感が芽生えてきます。
そして回復過程に、本人自身と周囲の期待によってもたらされる緊張感が軽減されます。
安心感という強力なプラスの思いが、マイナスの思いを打ち消していくのです。

ぶり返さずに順調にいけば、それもよし。
ぶり返したとしても想定範囲内のことで、『3歩進んで2歩戻る』でやっていくことができればそれもよし。
この考え方を持つ限り、最終的には良くなっていくしかありません。
これが心の回復過程を成功に導くコツです。

                            いずみハートクリニック 泉 和秀

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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