コラム

 公開日: 2014-07-21 

笑顔で迎える


笑顔でいるということは一般的にはとてもいいことだと思いますが、診察場面では意外な反応があって驚くことがあります。

私が一番印象的だったのは、医者になって3年目くらいの頃だったと思います。
30才前後の女性が初めて精神科を受診されました。
重度のうつ病だと考えられましたので、入院治療をしていただきました。
その後はすっかり元気になられて、お子様も産まれ、毎年、元気に過ごしているという年賀状だけをいただいてます。

その方が入院中にふとこんなことを言われたんです。
「初めてここに来たとき、もしこの先生がダメだったら死のうと思っていたんです。
でも、診察室に入ったときに先生が笑顔で迎えてくれて、それでもう1回頑張ってみようと思ったんです」
私が普段、何気なく心がけていた笑顔が相手の人生に影響を与えたかもしれないと思うと、この言葉はとても印象的でした。

その一方で、こんなことを言われることもありますね。
「先生、どうして笑っているんですか?
その笑うのをやめてほしいんですけど」
「いえ、別に笑っていませんよ。
微笑んでお話を聞かせてもらっているだけなんですけど」
「その笑っているのがバカにしているみたいで嫌なんです」
「全然バカになんてしていませんよ」

こうした人は心がとても被害的になっておられるんですね。
何を言ってもこちらの言葉が入らなくて、治療者の表情や態度へのクレームで話が終始してしまうこともあるんですね。
以前はこうした方にも話を合わせていましたが、最近はあまり合わせることはありません。
その人の治療や人生のためになるお話はしますが、被害的になっていることに対するお話には乗りません。
なぜなら、心の状態の悪い方のペースに合わせると、治療者自身も引きずり込まれてしまうだけで、そこから良くなっていくための歩みをとれないんですね。

もし合わせると大変ですね。
例えば、「そんなつもりはありませんが、笑顔でいないようにします」などと約束するとします。
しかし、笑顔というのは自然に出てくるものですから、ふとすると笑顔になってしまうことがありますね。
すると、その方はそのたびに怒ってクレームをつけ、診療とは何の関係もないところでトラブルになってしまいます。
合わせるということが決して治療的とは言えないように思うんですね。

一般的に、心の状態の良い方ととても悪い方とは見える景色が全く違うことがあります。
例えば、心の状態の良い方は、部屋が明るいと気持ち良く、静かな音楽を聴くと心が落ち着き、人の笑顔を見るとほっとしたり、嬉しくなったりします。
一方、本当に心の悪い状態の方は、部屋が明るいと落ち着かず、昼間でもカーテンを閉め切って部屋を真っ暗にしています。
クラシックなどの音楽がかかるとイライラして、ヘビメタのような荒れた音楽やオカルトのような映画を好みます。
人の笑顔を見ると自分がバカにされているのではないかと思い、イライラします。
心の良い状態の人が「いいな」と感じるものすべてを不愉快に感じるのですね。
それにこちらが合わせてしまうと、よほど心してなければこちらも暗い気持ちに引きずり込まれてしまいます。

このように、とても心の悪い状態の人も訪れる診療ではいろいろなことがあります。
それに対する治療者の考え方やスタンスはいろいろだと思いますが、私はいつもやはり相手を思う笑顔で迎えたいと思っています。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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