コラム

 公開日: 2009-08-26 

あきらめない心の医療②-「ダイヤモンドの心を見つめる医療⑤」-


心の問題や病気に対して治療を行っても、なかなか治る見通しが見えないことがあります。
心の問題や病気は目に見える科学として解明されているものではなく、とても難しく、現代の医療をもってしても、全ての病気が治るわけではないという現実があります。
ときにはその病気と付き合いながら、いかにしてより良い人生を生きるのかを模索しないといけないこともあります。

ただ中にはまだまだあきらめるべきではない問題や病気もたくさんあります。
私は以前、滋賀県立精神医療センターという環境とスタッフに非常に恵まれた職場で仕事をしていたことがありました。
治療をするのにこれほどに恵まれた環境はなく、あとは
    病気そのもののレベルがどれほど重症か
    医者がどれだけやれるか
ということにかかっていました。

この病院には滋賀県下の他の病院では治療が難しいとされる患者さんが次々と紹介され、こと摂食障害に至っては、他府県で治療の困難を極めた患者さんたちが来られました。
その最前線で、私もこうした方たちに関わらせていただきました。

実際、いくら条件が整っていても、こうした方たちとの関わりや治療は大変です。
何度も何度も自分の限界を感じる気持ちと対峙しました。

そんなとき、私は自分の治療をこんなふうに思っていました。
難しい患者さんというのは、そのダイヤモンドの心が硬く厚い真っ黒な岩に覆われたような状態です。
本当はその奥にダイヤモンドの心があるのだけれど、岩が厚くて、その光を発することができない。
そんな感じです。

それに対して、私の行う治療は“その岩に水滴を落とす”ような感じなのです。
岩に一滴の水滴を落としたところで、はじかれてそれで終わりです。
何も変わりません。

1滴でダメなら10滴落とします。
何も変わりません。
いや、10が100であろうが、100が1,000であろうが、何も変わりません。

でも、その奥にダイヤモンドの心がある限り、その岩を穿つ(穴を開ける)ために1万滴でも100万滴でも水滴を落とし続ける。
ただ1点に集中して水滴を落とし続ける。
その岩の厚さがどれだけあるかわからないから、どれだけ落とさないといけないかはわからない。
ただひたすらにダイヤモンドの心の可能性に賭けて水滴を落とし続ける。
人としてあきらめない。

このときの変化を待つ心境はこんな感じです。
患者さんは水深10,000mの海底の奥深くに沈んでいます。
けれど、正しい方向性に水滴を落とし続けるなら、患者さんは少しずつ浮上してきます。

10,000mが5000mまで浮上すれば何か変わるか?
いいえ、何も変わっているようには見えません。
10,000mも5000mも水面から光が及ばないのは同じで、その暗さは同じだからです。
全く変わっていないように見えます。

けれども、水深10,000mと5000mでは違います。
水深5000mまで来たならば、明らかに浮上してきているのです。
それは関わっている人にも本人にもわからない。
わからないけれども、ここであきらめてしまってはダメなのです。
夜の暗闇は、夜明け前が最も暗いと言います。
その暗さに絶望せずに粘り続けたとき、光が見えてきます。

水深で言えば、水深10mくらいになると急に明るくなり、そして海面に達してふと顔を出したときに一気に世界が変わります。
患者さんの表情や言動にも明らかな変化が見られるのです。
心の治療ではそうしたことがよくあります。
その無限にも見える努力が、あるときに急に変化となって表れるのです。
岩を穿つ例えで言えば、その水滴によって空いた穴がある深さに達したとき、ダイヤモンドの心の一条の光が見えるのです。

「言うに易し、行うに難し」です。
ただこれほどの覚悟を持って関わることが必要なこともあるのです。
難しい心の病であっても、何かひとつの方向性を持って関わり続けるなら、こうした途方もない粘り強い関わりの中で、その方の持つダイヤモンドの心の光が輝き始める。
そんなことがあります。
また別の機会にそうした具体的なお話をしてみたいと思います。

                              泉 和秀

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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