コラム

 公開日: 2012-05-31 

情に生きる

幼少時から思春期、青年期にかけて、私は非常にわがままな人間でした。
今思うと、私のまわりにいる人たちは、いろいろと私のことを目にかけて気を配ってくれていましたが、私はいつも自分のことしか考えていませんでした。
20才を過ぎ、そんな自分が嫌になり、徐々に
    「人に愛を与える人間になっていきたい」
    「人の幸せに役立てる人生を生きたい」
そう考えるようになり、自己変革に取り組み始めました。
以来、常に自分の課題を持ち、自己変革に取り組んでいないときはないように思います。

その頃からだと思います。
次第に、人への思いが強くなり、情に流されることが多くなってきました。

人から相談に乗ってほしいと言われれば、試験が明日に迫っていようが、自分自身が落ち込んでいようが、何よりも優先して相談にのりました。
遠方の人からどうしても来てほしいと頼まれれば、遠方まで訪れて相談にのることもありました。
医者になって何年かした頃には、昼は患者様の診療、夜や休日は友人や知人の相談を受け、人の相談にのる毎日を自らのアイデンティティとして生きていました。
あるとき、学生時代の仲間が何十人か集まって同窓会をしたとき、ふと見ると、そのうちの半分以上の人から相談を受けていたという事実に気付き、驚いたのを覚えています。

しかし、ある頃からそうした自分の生き方に疑問を抱くようになってきました。
日夜、人の悩みの相談を受けるというのは、相当なエネルギーの消耗です。
もちろん明るい話ではなく、いつも暗い話ばかりに集中するので、自分自身の心にもそうした暗い思いが影響してきます。
次第に、燃え尽きそうな感覚に襲われ始めました。

ただ現実は、公私ともにますます多くの人から相談を受けるようになってきました。
ある意味、信頼を寄せてもらっているからだと思いますし、それはとてもありがたいことです。
求めてくれる気持ちに応えたいという思いは強く、どのような人も決して見捨てたくないという思いもあり、情に流されながら過ごしていました。

しかし、40才になった頃、プライベートで悩みを抱え、その一方で、仕事では他の病院で見放され、たったひとりを担当するだけでも大変だというような患者様を十何人も抱えるようになり、ついに自らの限界を感じ始めました。
それは心身の不調となって表れ始め、このままでは40代後半には取り返しのつかない病気になる可能性が高いだろうと予測されました。

もっと多くの人の幸せに役立ちたい。
でも、自分には限界がある。

そうした葛藤の中で、自分を見つめ続け、あることに気がつきました。
私自身、自らの体をこわすほどに人のために生きんとするのは、情に流されるからではないだろうか。
その一方、自らの心身の破綻(はたん)が見えても、なお続けようとするのは、その燃え尽きるほど必死になってやるところに自分のアイデンティティを持っているからで、そこには、そのように頑張っていないと自分の価値が感じられない不安や焦燥感があるからかもしれないと思うようになりました。
情に流されるのは、もちろん純粋な思いでもありますが、実は自分の不安や焦燥感を癒さんとする自我我欲によるところもあるのかもしれません。

悩み、苦しんでいる人は、この世界中に山のようにいます。
自分がその全ての人のために役立てる存在になれないのは当然のことです。
であれば、自分の心身を守るための限界を自覚し、とてもつらいところもあるけれども、診療をさせていただく患者様の数を限定させていただこう。
プライベートな相談ももちろん、知人や友人からの相談は喜んでのらせてもらうけれども、自ら相手の悩みを探して関わるようなことはやめよう。
そう思うようになりました。

ただ、より多くの人の幸せに少しでも役立てる人生を生きたいということに変わりはありません。
診療や相談という形での限界を突破するために、こうしたコラムのような文字にして発信するという手段によって、より大きな影響を与えていくことができたらなあと考えを切り替えるようにしました。
それは、小さな情に流されんとするのを自らの心と戦って、勇気を持って断ち切り、より大きな情に生きる生き方に変わりつつある姿ではないかと感じています。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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