コラム

 公開日: 2012-05-23  最終更新日: 2012-06-01

安心感を与える助言

心身の不調をきたして病院に行くと、主治医の先生は何らかの説明や助言をしてくれます。
そんなとき、説明や助言をしてもらったことで余計に心がざわざわと波立つときもあれば、心に光が差し込み、穏やかになることもあります。
その理由のひとつに、主治医の思いと洞察力の深さがあるのではないかと思います。

例えば、先日、肋骨を痛めることがありました。
私には整形外科医の友人がたくさんいるので、そのことについて何人かに訊ねてみることにしました。

ある医者は
    「とにかく肋骨の損傷がどんなレベルか検査をしないといけない。
    そうしないとわからないな」
と言いました。
その通りです。
でも、検査が大事という話が主体で「わからない」と言われたことと、最終的にはどのような見通しになるのかという説明の曖昧さにざわざわとした不安が残りました。

ある医者は
    「それは骨折しているかもしれないな。
    もし骨折していなくても、これ以上咳が続いたり、ゴルフをしたりすると本当に骨折するよ。
    そうしたらしばらくはかなり大変なことになるよ」
と言いました。
ある意味、この助言もその通りでしょう。
でも、医者によくありがちな最悪の事態を想定した話に終始したことと、少し脅されるような助言のあり方にさらに不安が増大しました。

そこでもうひとり別の医者に同じように訊ねてみました。
すると、その医者はこのように言いました。
    「折れても、肋軟骨をいためても、肋間筋をいためても、症状は強弱がややある程度で、あまり大差はありません。
    痛いようなら安静が一番です。
    その間、痛みの出る動作は極力避けるようにしないと、いつまでも痛みが続きます。
    基本的には安静にしていれば、少し日数は要しますが、日にち薬で治ります」
この助言には、原因が何であっても治療は基本的に同じであること、無理をした場合にはその状態が持続するだけであること、治すためには安静にしていればいいということ、こうした内容が含まれていました。
最悪の場合を含めて全てのことを想定した説明と見通しの見える説明に、ようやく安心することができました。

いずれも医者の説明としては間違っていません。
ただこれらには、医者のスタンスとしての違いがあります。
医者としての理屈だけをきちんと説明しようとするというスタンス。
常に最悪のことを説明し、医者としての立場の優位性を守ろうというスタンス。
正しい説明をしながらも、相手の不安がどこにあるのかを思いやり、安心感を与えることを意識したスタンス。
医者としては正しくても、患者側としては大きな違いがあります。

肋骨にどのような損傷を与えているかといった軽症の身体的問題でさえ、これだけの違いがあります。
ましてや心の治療においては、医者のスタンスの違いは大きな違いをもたらします。

説明や助言ひとつで、より心の病気が悪化することもあります。
一方、説明や助言ひとつで希望を見出し、病気を治したいという意識が高まり、よくなっていくこともあります。

私にとって印象的だったのは「君は病気だから一生治らないよ」と主治医に言われたことで絶望し自殺まで図った少女が「病気であってもそうでなくても、あなたには絶対に治る可能性がある」と話したことをきっかけに劇的に治ってしまったという出来事です。
まさに医者の説明や助言がどれほどに影響を与えるかといったことの最たる事例だったと思います。

医療の教育現場では、医者のスタンスについてこれほど具体的に教わることはありません。
しかし、説明や助言をする立場にある人は、ただそのことに終始するだけでは相手の心を救えないことがあります。
相手の気持ちに思いを馳せ、どのようにすれば少しでも安心感を持っていただけるのかといった深い洞察のもとで話をすることは、とても大切なことではないかと思います。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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