コラム

 公開日: 2011-09-04 

究極の技法とは?

心の医療には様々な技法があります。
しかし、どのような技法よりも最も人の心に影響を与える究極の技法は、診療に臨む医者自身が
    『自分の心を見つめ、その人格を高める』
ということだと思います。

自分の心を見つめ、その人格を高めるためには、多くの視点があります。
ここではふたつの視点から話をしたいと思います。

医者は「客観的な科学者である必要がある」と考えられています。
それはその通りですが、前回のコラムで述べたように、病気の症状や統計を見つめ、いつも最悪の事態を予想するだけの悲観主義者であってはいけません。
ダイヤモンドの心を見つめ、その可能性を信じる人間であることは、とても大切なことだと思います。

心の病において難しいのは、病気を治すことよりも、病気に至る思考パターンを修正することです。
「何事に対しても心配して、不安に思ってしまう」
「相手が自分の思った通りになってくれないと、相手への不平不満、怒りで心を満たしてしまう」
「自分なんてダメだ、どうしようもない人間だと思いこむ」
などなどあげれば切りがありませんが、こうした思考パターンこそが心の病気を呼び込んでいます。
しかし、人はこうした思考パターンから、なかなかな脱却することができません。

脱却するためには、自分の心の奥にはダイヤモンドの心に基づく“本当の自分”があることを知ることです。
そして、その“本当の自分”の心に基づいて生きようとすることです。

“本当の自分”として生きるとはどういうことか?
“本当の自分”として生きられているかどうかの指標は、
    “いい気分で過ごすことができているかどうか”
ということです。
常識や「ねばならない」思考にとらわれず、自分が心から望む道に進む。
人に対しては嫌なところとは距離をとり、いいところを見るようにする。
現実がどのような苦境にあっても、心の中では自分の望む世界が実現する姿を描く。
そうしたことをいつも心がけ、いい気分で過ごすことを心がけることができていれば、その状態が“本当の自分”です。
“本当の自分”であり続けることができれば、心の病気は自ずと離れていきます。

病気の症状や最悪の事態だけに目を向けているなら、医者は自らの心を見つめることです。
相手のダイヤモンドの心を見つめ、その心の力を引き出すような関わりをしているかどうかを振り返ることです。
その姿勢そのものが人格を高めることにつながります。

もうひとつの視点は、一生懸命に相手のことを思って医療を行っていても、そこに“自我”というものがないかどうか、医者自身が“本当の自分”になって医療を行っているかどうかを見つめること。
それがとても重要なことではないかと思います。

これはちょっと難しい話です。
例えば、拒食症の人との診療ではこんなことがあります。
その人は20代の女性で、親に連れられて診察に来ています。
毎日、食べ物をほとんど摂取せず、やせ細って骨と皮だけの体になり、自力で階段を上ることさえできない状態にあります。
どう見ても、このままでは死が目前に迫っています。
ですから、診察ではいかに重症であるかということを話し、治療の必要性について訴えます。
しかし、拒食症の人は自分が病気であるという意識に欠けていたり、病気であることに対する否認が強かったりします。
ですから、しばしば頑固として治療を拒否します。
いくら話しても多くの場合、暖簾に腕押しのような感じでなかなか通じません。

そんなとき、医者として本人に治療の意志がないなら仕方ないと見切ることは簡単なことです。
けれども、人としてこの方を何とか救いたいという思いがあるので、必死になって話します。
それでも通じないと、話す言葉にも思わず感情が込もってきます。
ときには怒ってでも治療の必要性をわかっていただかなくてはと思い、頑張って話し、自分自身もとても疲れ切ってしまいます。

この場合、私は一生懸命であるがゆえに感情を込めて話しているのですが、実はそこには私自身の“自我”があります。
自分の力で何とかしたいという“自我”があるのです。
もちろん、ほとんどの人には“自我”があります。
“自我”があってもそれに勝る相手への思いが伝わり、その人が良くなっていくこともよくあります。

ただ“自我”があるときには、相手に嫌な気持ちを感じさせることがあります。
“自我”があるときには、必要以上にエネルギーを放出して、疲れ切ってしまいます。
そこに問題があります。

本当に優れた関わりというのは、この“自我”を抑えて、自分自身が“本当の自分”になって関わっていくことです。
“本当の自分”とは奥深くでは相手のダイヤモンドの心を信じていながらも、その場では自分のできることを淡々と行って、自然な流れに身を任せることです。
相手がこちらの話を聞いてくれる流れになれば、踏み込んで話し、相手に余裕がないと見れば、少し時間を与えて待ってあげる。
常に相手を見ながら、相手のダイヤモンドの心とつながることができるように関わっていく、そうした関わりです。

相手のために一生懸命に仕事をしない医者は論外だと思います。
ただ一生懸命にやっていても、もう一つ踏み込んで、自分の心を見つめ、その人格を高めることを意識することが重要だと思います。
“自我”に基づく関わりをしているのか、“本当の自分”に基づく関わりを意識しているのか、ここを見つめることができれば、治療にも大きな差が出てくるだろうと思います。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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