コラム

 公開日: 2011-08-21 

心の病気の見極め

悩みを抱え、心身の不調をきたし、内科や小児科、耳鼻科、整形外科、脳外科などいろいろな科を受診して検査をしても異常がない。
そんなとき、
    「何かストレスによるものじゃないですか?」
    「心療内科でも受診したらどうですか?」
と言われることがあります。

そうすると、
    「うつ病か何か、心の病気にでもなったのだろうか」
そうした不安の中、おそるおそる心療内科を受診される方がいます。
その一方、
    「うつ病ならうつ病と言ってもらいたい。
    病院でそのように言ってもらえれば、周囲の理解を得ることもできるし、できれば、仕事も休んで休養したい」
 そんな思い、あるいは期待を持って受診される方もいます。

診療ではそうした思いを察しながら、診察に臨みます。
しかし、心の病気の見極めは必ずしも簡単ではありません。

体の病気のように検査をすれば異常を認めるものは、誰の目にも明らかです。
ウイルスや細菌が見つかれば感染症ですし、ガン細胞が見つかればガンということになります。
しかし、心の病気では、例えば、うつ病評価尺度を表す心理テストを行い、うつ状態にあるという結果が出ても、必ずしもうつ病とは限りません。
一時的なうつ状態に過ぎず、そこから脱するのに何ヶ月も治療が必要なうつ病ではないということがあります。

体の病気では、健康と病気という概念は全く違ったレベルにあります。
しかし、心の病気では、健康と病気という概念がひとつの直線上の流れの中にあり、ここにその見極めの難しさがあります。
直線上のある点にあれば明らかに健康であり、ある別の点にあれば明らかに病気です。
ただ、その間に位置する点にあった場合、健康と見るか病気と見るか、非常に微妙なところがあります。

もちろん、心の病気にも診断基準はあります。
ただ病気という診断をするか否かは、診断基準に頼るだけではなく、
    「その人がどれほどに困って苦痛に感じているのか」
    「どれほどに日常生活や社会生活に支障を来しているのか」
    「病気と診断することがその人にとってメリットになるのか、デメリットになるのか」
こうした主観的な視点も考慮します。
そして、
    「その人がより良い生活を取り戻すにはどうすればいいか」
    「目先の利益-例えば、一時的な休養など-だけではなく、その先の人生まで見てその人にとって苦しみの少ない人生に導くにはどうすればいいか」
こうした客観的な視点も含めて、心の病気とするか否かを判断します。
そして、それに応じた治療を考えていくのです。

もうひとつ、心の病気の見極めにおいて難しいのは、その問題が病気だけではなく、背景にその方のパーソナリティ、すなわち、ものの見方や感じ方、考え方の問題がある場合です。
人によっては、単純に「自分は病気なのか、そうではないのか」という答えを求めてこられます。
しかし、病気かどうかということよりもその方のパーソナリティに根本的な問題があると考えられる場合、そうしたことを伝え、理解してもらうのはとても難しいことがあります。

それはそうでしょう。
    「あなたのパーソナリティにこそ、本質的な問題がありますよ」
と言われて受け入れるには、かなりの素直さと勇気が必要です。
しかし、そのパーソナリティの問題を置き去りにして、表面的に病気のように見える症状だけを扱い、薬による治療に終始しても、本当によくなることはなかなかありません。
苦しい状態が続き、「どうしていつになっても治らないんだろう」ということになります。

心の病気と言っても、それは体の病気とは異なり、単眼的に理解できるものではありません。
もし、単眼的に捉えて治療を行うなら、心の問題を抱えた人の大部分が袋小路に入ります。
苦しい状態が続き、どうすればいいかわからなくなります。
心の病気の見極めには、複眼的にいろいろな角度から見つめ、常にその人の人生をより良いものに導くにはどうすればいいかといった視点から考えることが必要だと思います。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

このコラムを読んでよかったと思ったら、クリックしてください。

「よかった」ボタンをクリックして、あなたがいいと思ったコラムを評価しましょう。

1
<< 前のコラム 次のコラム >>
最近投稿されたコラムを読む
 
このプロの紹介記事
泉和秀 いずみかずひで

誰もが持つ“ダイヤモンドの心”。その輝きを取り戻すために(1/3)

 神戸・岡本、山手幹線沿いにある「いずみハートクリニック」。明るい表通りに面したこのクリニックを昨年(2008年)4月に開業したのが同院長・泉和秀さんです。 自然光がふんだんに射し込む受付・待合室から診察室まで、全室にわたり院内だという...

泉和秀プロに相談してみよう!

神戸新聞社 マイベストプロ

会社名 : いずみハートクリニック
住所 : 兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL : 078-453-8010

プロへのお問い合わせ

マイベストプロを見たと言うとスムーズです

078-453-8010

勧誘を目的とした営業行為の上記電話番号によるお問合せはお断りしております。

泉和秀(いずみかずひで)

いずみハートクリニック

アクセスマップ

プロのおすすめコラム
自分の時給を決める

小平つかささんの「やりたいことだけして生きていく」という本にこんなことが書かれていました。「あなたは、自...

医療における奇跡

医療の世界に奇跡があるかという話になると、大部分の医者は否定するような気がします。ただ現実には奇跡のよう...

自分のことは自分が一番わかっている!?

「自分のことは自分が一番わかっている」これまでの人生で、人がそんなふうに話すのをよく聞いてきました。そ...

「最近、多いよね」

「最近、良くなって治療が終わる人が多いよね」受付の子とそんな話をしています。一般的に医者、特に心の医...

「疲れた」

夕方になると思わず「疲れた」という言葉が出てしまいます。理想は、いつも元気でエネルギーに満ち溢れている姿...

コラム一覧を見る

人気のコラムTOP5
スマホで見る

モバイルQRコード このプロの紹介ページはスマートフォンでもご覧いただけます。 バーコード読み取り機能で、左の二次元バーコードを読み取ってください。

ページの先頭へ