コラム

 公開日: 2011-07-30 

怒ることと叱(しか)ること

怒ることと叱ることは微妙に違います。

怒るとは、自分にとって納得のいかないことがあるときに、感情に駆られて相手を責め、攻撃する行為です。
一方、叱るとは、相手が誤った行動をとったり、誤った道に進もうとしたりしていると思われるときに、厳しく指摘する行為です。
平易な言葉で述べるなら、怒るのは自分のためであり、叱るのは相手のためです。

ただ現実的には、怒ることと叱ることの区別は難しいところがあります。
叱るつもりがいつの間にか自分の感情に身を任せて怒るだけになっていたということもあります。
叱っていても100%が叱っているのではなく、そこに10%の怒っているという行為を伴っていることもあります。

経営の神様と言われ、今のパナソニックを創業した松下幸之助氏の叱責はすごいものだったそうです。
松下幸之助氏の側近だった江口克彦氏が書いた『成功の法則』(PHP出版)という本によると、このように書いてあります。
叱責の何がすごいかというと、一旦怒り始めると3時間にもわたって怒るのです。
怒られている側は、最初は
    「申し訳なかったが、何もここまで怒ることはないのではないか」
と思うそうです。
それが1時間、2時間と経つうちに
    「すごいな。これほどの情熱をかけて一生懸命に叱ってくれる。注意してくれる」
と思うようになってくるのです。
私情や個人的な感情にとらわれて“怒っている”のではないことがわかってくる。
激しい言葉の奥に温かさ、やさしさが感じられ、「自分が悪かった」と自然と気がついてくる。

私も、特に患者である思春期の子どもと関わるときには、怒ること?叱ること?がよくありました。
最初の頃は、自分にも未熟さがあり、叱るより怒ることが多かったように思います。
しかし、怒るということが自分の個人的感情によるもので自分のための部分が強く、本当に相手のためと言えない部分があるということがわかってからは、怒るということについては大分踏みとどまるように心がけました。

一般に、怒らないようにすると、叱ることも少なくなってきます。
それは怒ることなしに叱るということが難しく、区別し難いものだからです。

ただ思春期の子どもをはじめとして人というものは、やさしさによる関わりだけではなかなか思いが伝わらず、わからないことがあります。
とてもとてもやさしく接しても、それがどれほど深いやさしさなのかがわからず、自我に基づいたわがままな行為を繰り返すことがあります。

そんなとき、人は厳しく叱られるというメリハリの中で、やさしさの深さを理解します。
だから、やさしくするだけではどうしても伝わらないと思うときには、真剣に叱ることです。
相手が嫌いだからではない。
相手に腹が立つという部分も本音としてはいくらかあるかもしれないけれど、その感情に任せて怒っているのではない。
その相手に伝えるにはやさしさだけでは伝わらず、叱るしかないから叱るのです。
ある意味、涙を流しながら叱るのです。
相手の魂から決して逃げない。
表面的には相手も反発したり、落ち込んだりすることもあるだろうけれど、「相手の魂には必ず伝わる」と信じて、その魂に訴えかけて真剣に叱るのです。

私の場合、叱っているうちについ怒りの感情が出てくることもありました。
そんなときには、気付けば自らの感情に向き合い、「この子を絶対に見捨てない。そのためには今、叱るしかないんだ」と言い聞かせ、相手の魂に訴えんと全身全霊で叱ってきました。
ある子どもには「先生は鬼だ」と言われましたが、さらに聞くと「その鬼のおかげでよくなりました」と言われました。
問題行動を繰り返し、誰からもどうしようもないのではないかと思われていた子どもが、叱ったことを転機に見事に変わり、その後の人生そのものが変わったこともあります。

松下幸之助氏も
    「叱るときには、本気で叱らんと部下は可哀相やで。
    策でもって叱ってはあかんよ。
    いつでも、人間は誰でも偉大な存在であるという考えを根底に持っておらんとね」
と言っておられます。

怒るという行為は、できるだけ抑えていきたい。
しかし、人を生かすためには、叱るという行為がときに必要です。
そのときに、どうしても怒るという感情を伴ってしまうのは人間として自然なことです。
ただ限りなく“怒る”という部分を抑え込み、“相手のために叱る”ことを意識し続けていると、相手の魂に伝わる“叱る”という行為ができるようになってくると思います。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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