コラム

 公開日: 2011-07-20 

病気を診(み)て、人を見て、心を観(み)る

医者の仕事は病気を診ることです。
糖尿病、高血圧、ガン、その他さまざまな病気を診ることが仕事だということに異論はないと思います。

心の医者の仕事はどうでしょうか?
    「心の医者だって、病気を診ることが仕事だろう」
多くの先生はそのように答えられるような気がします。
    「病気を診る以上のことは、医者の仕事ではない」
と言われる先生もおられると思います。

しかし、しかし…。
病気を診ることだけに徹し切れば、実際に救える人たちはほんの一握りの人になるように思います。
人として、心の病気の人と向き合うとき、その悲しみが見えます。
その心を見つめるとき、その可能性の光が見えます。
そうした部分を見ないで、病気の部分だけを見るなら、どこか人間を機械のように見ている気がしてなりません。

『3年B組金八先生』の第2シリーズで、金八先生は加藤という不良少年のことをこう語ります。
    「我々は機械やミカンを作ってるんじゃないんです。
    人間を作っているんです。
    そして、人間の性根が腐りきってしまうことなんか、絶対に有り得ないんです。
    それを防ぐのが我々教師じゃないんですか。
    そして、もしも、もしも・・・それが出来ないのであれば、我々は教師を辞めるべきなんです。
    正直言って私も自信がありません。
    しかし、・・・何よりも、今の加藤を見殺しにするような真似は絶対したくないんです」

心の医者の仕事は、人間を機械のように捉えて、病気だけを診ることではないはずです。
心の医者の仕事は、
    『病気を診て、人を見て、心を観る』
ことです。

例えば、うつ病の場合、抑うつ気分、意欲低下、食欲低下、集中力の低下、全身倦怠感、不眠などといった症状があることを捉え、うつ病と診断し、薬などによる治療が必要だと考える。
これが病気を診る目です。

それに対して、人を見るとは、その人の本当の今の思い、心の状態、そして、人生を見ることです。
うつ病であったとしても、その人はうつ病かどうかよりも、うつ病になるきっかけとなった人間関係のトラブルのことで思いがいっぱいかもしれません。
もし、そうであればその人の今の思いに焦点を当てて、そのトラブルに対していかにして考え、対応していくのがいいのかといった道筋を話してあげることです。
そのようにして、安心感を与えてあげることです。
その安心感がより病気の回復を早めることになります。

また同じうつ病であっても、その人の心の状態をじっと見つめます。
すると、ある人は絶望して、その心は真っ暗な状態にあり、息も絶え絶えにかろうじて生きておられます。
ある人はうつになって自信を失いかかっているけれども、どこか希望を失っておらず、その心に一条の光が見えます。
その人の語る言葉だけでなく、目、表情、ちょっとした言動をじっと見ていると、そうした心の光の有無が見えることがあります。

心が真っ暗な状態にあれば、いきなり明るくなっていただくことは難しい。
まずはその人と何とかつながり、そのつながりの中で、心に光が入ってよくなるチャンスをうかがいます。

一方、その人の心に一条の光が見えるなら、その光を捉えて支えることです。
    「今はしんどいかもしれないけれど、絶対によくなると思うよ。
    あなたの考え方は正しいし、ちょっと相手とのずれから不安になり、落ち込んでしまったのかもしれないけれど、一緒に治療すればきっと良くなると思う。
    ここまで本当によく頑張ってきたと思う。
    あなたはあなたのままでいいと思いますよ」
そんなふうにその人の心の光の部分を支えると、その人の心の光が強くなってきます。
ときにはこちらの予想をはるかに超えて、ぐんぐんとよくなってくることがあります。

そして、何よりも人生を見ることです。
うつ病という病気だけを診るならこのように治療すればいいで終わりますが、その人の立場に立ってその人生を見ると、必ずしも病気の治療だけをすればいいというものではなくなってきます。
うつ病の治療のためには仕事を休んで休養した方がいい。
しかし、今仕事を休めば会社が倒産する。
そんなときには、そのバランスの中で何を最優先するのか?
その人の人生という視点から見つめ、一緒に考えることが必要になります。

人生を見るということは、病気を治すことを超えてその人の幸せを考えるということです。
もしそうした視点から捉えると、病気だけを診る一般の医療とは全く違った医療がそこに見えてきます。

最後は、心を観るということです。
心を観るというのは、一言で言えばダイヤモンドの心を観るということです。
その人の心の奥に潜む可能性を観るということです。

心をじっと見つめ、今、そのダイヤモンドの心の可能性をいかにして引き出せばいいのか?
今は引き出せる時期にあるのか、難しい時期にあるのか?

この視点があって初めて、あきらめないという思いが生まれ、ときにそれが奇跡の医療を生み出します。

    『病気を診て、人を見て、心を観る』

これが一般の人からは当たり前のようであって、医学の世界においては当たり前でなく、本当に人のニーズを満たす心の医療ではないかと思います。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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