コラム

 公開日: 2011-05-15 

すべてはやる前に決まっている

人生にせよ、心の治療にせよ、ある意味、
    『すべてはやる前に決まっている』
と言えます。
もちろん、人には可能性があり、周りの人や環境の影響を受けるので、
    『最初の時点ではこのように予想されたけれども、その予想を遥かに超える結果になった』
ということはあります。

ただ人は自己責任において『すべてはやる前に決まっている』ところがあり、
    『自分の思いこそがすべてであり、自分の信じているものこそがすべてだ』
ということも知っておくことです。

学生時代、私はテニスのトッププレーヤーとして活躍していました。
しかし、トップと言っても、たかだかその大学でトップというだけでしたので、他校には私よりもずっと強く、それだけの戦績を残している名の轟(とどろ)いたトッププレーヤーもいました。
そうした相手との試合になると、誰もが、私が勝つのは難しいだろうなと思っていました。
当然のことですよね。

ただひとつ普通と違っていたのは、“私の心の中にあった思い”だったと思います。
私の中にはどうも普通の人だったらそこまで持たないような強烈な思いがありました。
それはただひとつ。
    「そうした最高の相手と戦うときこそが最高の瞬間であり、自分の人生のすべてを賭けてでもその試合に勝ちたい」
この思いの強さは、おそらくどんな強いプレーヤーよりも強いものがあったように思います。
ですから、自分が一旦、最高の相手だと認めた相手と試合をするときには、試合前にはすでに最高に集中した心境になっていました。
「負けるのではないか」「負けたらどうしよう」といった不安感はすべてワクワクするような緊張感に代わり、負けるという選択肢は頭の中から消えていました。
あるのは、
    「ただ勝つために、正確には、負けないために一球一球いかにして最高のショットを打つか」
それだけでした。
その結果、相手がいくら強くても、それだけ本気になった相手に負けた記憶はありません。
周りからはたびたび、奇跡の勝利のように思われましたが、心の中では『すべてはやる前に決まっている』状態にあり、試合には勝った状態にあったのだと思います。

もちろん、その逆も然(しか)りです。
勝ちたいけれども、そこまでの気持ちが入らず、試合中に「負けるかな」という気持ちになったときには、そのまま負けてしまったこともあります。

これは心の治療でも同じことが言えます。
心の治療の場合、『すべてはやる前に決まっている』ことには、心の治療を受けている本人そのものの思いと、治療者の思いとこの2つの要素があります。

治療者が「この人はもう治らない」とあきらめてしまっている場合は何も言葉はありません。
99%治ることが難しい方であっても1%の可能性があるなら、その1%に賭ける。
テニスの試合のときと同様に、その思いが奇跡をもたらすことがあります。
実際、心の治療の場面において、私自身、そうした経験を何度も何度もしてきました。

ただ心の治療において本当に大事なのは、やはり本人の思いです。
本人が「もう治らない」と決めつけ、あきらめていたり、あるいは、病気になることで現実逃避することができているので、心の奥に病気でいたいという思いが強くあったりすると、なかなか治すことはできません。
薬を飲んでもなかなか効かなかったり、何か症状があるとすぐに薬の副作用に関連付けて飲むことを拒否しようとしたり、薬の作用が強力で病気がよくなってきた場合にはすぐに別の病気になったりすることがあります。

思いの力は、非常に大きなものです。
そんなとき、治療は病気を治すことではなく、いかにして本人の治療への思いを変えるか、治療へのモチベーションを上げるかということになってきます。
最終的には本人の思いひとつなので、治療者はときには励まし、ときに厳しく自分と向き合わせるなどして関わらざるを得ません。
ただ基本的には本人がその気になっていないので、治療者が熱くなりすぎると、うっとうしく思われたり、反発されたりすることもあり、そこが難しいところです。

ただ何よりも知っていただきたいことは、心の治療がうまくいかないとき、もちろん治療者の技量の問題や、薬物の使い方の問題、いろいろな治療方法の問題があります。
しかし、いくらそうしたものを探して求めてもうまくいかないとき、実は思いに問題があることがあります。
それは治療者の思いであり、それ以上に、本人の思いです。
本人が
    「どんなことがあっても治したい。
    絶対に元気になって、こんなことやあんなことをしたい」
と思い、治療者にも同じ思いがあるなら、治る確率はかなり高くなります。

例えば、私がよく診ている摂食障害やパーソナリティの問題を持った人はそうです。
率直に言って、治すのはとても難しい。
だから、私は初診のときによく聞くことがあります。
    「絶対に治したい?」
    「何が何でも治したい?」
実際、この問いかけに「できれば治したい」という人は多くいても、「絶対に治したい」という人はごくわずかしかいません。
ただこのごくわずかの人たちには、いくら病気が重くても私にはとても強い希望と光が見えます。
    『すべてはやる前に決まっている』
すなわち、この場合、治療者側にあきらめない姿勢があるわけですから、本人にもその姿勢があるとなれば、
    『治療はやる前に決まっている』
のです。

人生も同じです。
心の中で本当にこうなると思うことができたなら、それが実現する可能性は極めて高い。
ナポレオン・ヒルやノーマン・ヴィンセント・ピールはじめ、様々な自己啓発家もそうしたことを語っています。

    『すべてはやる前に決まっている』

簡単なようでとても難しく、ふと子どものような素直な心を持つことができて、心の腑に落とせば、とても簡単なこの心の法則。
心の治療においても、人生においても、どのような思いを持つのか。
どのような思いを信じるのか。
そして、確信できるのか。
この一点をおさえることができれば、様々な難しい問題を克服できる可能性がそこに見えてきます。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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