コラム

 公開日: 2011-05-11  最終更新日: 2011-05-25

刃を研ぐ

アメリカ第16代大統領エイブラハム・リンカーンは
    「もし、8時間で木を切り倒せと言われたら、私は7時間を斧の刃を研ぐことにあてる」
という言葉を残しています。

「7つの習慣」(スティーブン・R・コヴィー著、キング・ベア-出版)という本の第7の習慣にも「刃を研ぐ」という言葉があり、次のようなことが書いてあります。

森の中で木を倒そうと、一生懸命にのこぎりをひいているきこりがいます。
「何をしているんですか」とあなたは訊きます。
すると、「見ればわかるだろう」と無愛想な返事が返ってきます。「この木を倒そうとしているんだ」
「すごく疲れているようですが…。いつからやっているんですか」あなたは訊ねます。
「かれこれもう5時間だ。くたくたさ。大変な作業だよ」
「それじゃ、少し休んで、ついでにそののこぎりの刃を研いだらどうですか。そうすれば仕事がもっと早く片付くと思いますけど」とあなたはアドバイスします。
「刃を研いでる暇なんてないさ。切るだけで精一杯だ」と強く言い返されます。

私たちの生活の中でこうしたことはよくあります。

目の前に、こなすのがとても大変だという勉強や仕事があるとき、がむしゃらにその勉強や仕事に取り組み、頑張る。
しかし、頑張っているわりには、一向に思ったような成果を上げられない。
それどころか、心と体はどんどん疲弊していく。
「なぜなんだ」と自分に問う。
   「自分に能力がないからだ」
   「自分が甘えているんだ」
   「自分が弱いからだ」
そう思って、さらに無理を重ねる。
その結果、心は疲れ、体をこわしてしまう。

冷静になると、この話はよくわかります。
しかし、現実には目の前の勉強や仕事にとらわれて、焦りと不安で気持ちがいっぱいになると、この話は心に響かなくなり、きこりと同じことを言って、同じことをしてしまいます。

私も長年、同じようなことを繰り返してきました。
この話を何度も何度も読み返し、その度に「その通りだな」と思って刃を研ぐことに取り組もうと思いましたが、目の前に山積みされた勉強や仕事があると、不安に駆られて、ついそのことに手をつけてしまう。
そのうちに疲れて、結局、勉強や仕事の効率を落としてきました。

ただよく考えると、大統領として多忙を極め、しかも、南北戦争の指揮をとり、あの偉大なる「奴隷解放宣言」を成し遂げたリンカーン大統領が「大きな問題が目の前にあるなら、そのことに取り組む前に刃を研ぐことに時間を割け」と言われているのです。

私も最近は大分そのことを理解し、実践するようになりました。
疲れる前に、すなわち、のこぎりの刃がぼろぼろになる前に休む。
講演準備をするときやこうしたコラムを書くときには、ただいたずらにパソコンに向かうのではなく、その前にだらだらしたり、ぼーっとしたりして、リラックスした状態を作り、心を静める。
本を読んだり、映画を見たり、診療のことを頭に巡らし、ふっと心に響くものが出てくるまで待つ。
そうして仕事に取り組むと、その仕事は自分の力だけではない何か別のインスピレーションなどが働いて、とてもスムースに捗ります。

刃を研ぐというのは、心や身体を整えることです。
行動する前に十分な計画を立てることです。
何を捨てるかを考え、自分の人生の中で何が一番価値のあるもので、人生の土台となるものかを確認し、その価値観の順番に基づいて、時間を投資することです。
勉強や仕事よりも家族と接する時間の方が価値のあることかもしれません。

私もこれが実践できるようになるまでには時間がかかりました。
どうしても不安と焦りにとらわれるので、そのたびに友人など身近な人に相談をしていました。
相談をしても、申し訳ないのですが、相手によっては余計に不安や焦りしか得られないこともありました。
ただ一部の人は、この「刃を研ぐ時間をとっていいんだ」ということを繰り返し言ってくれました。
不安でしたが、勇気を持ってその通りにやってみました。
すると、実際、いつもうまくいきます。
その体験を通じて、「刃を研ぐ」ということがやっと身についてきたように思います。

目の前に山積みされた勉強や仕事をこなし、自分自身の心と体を守るためには
    「もし、8時間で木を切り倒せと言われたら、私は7時間を斧の刃を研ぐことにあてる」
というリンカーン大統領の格言を実践することです。
そのためには自らの不安と焦りに打ち勝ち、「刃を研ぐ時間を持っていいんだ」という勇気を持つことです。
実践すると、以前より心と体が楽になり、その一方で勉強や仕事に成果をもたらし、充実した自分を見つけられるのではないかと思います。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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