コラム

 公開日: 2011-02-18 

自分の身は自分で守る

多忙な中で身を粉にして働き、体調を崩されている人を見るたびに、
    「自分の身は自分で守る」
ことこそが鉄則だなと思います。

自分のキャパシティを超える仕事を抱え、そのストレスから体調を崩しかかったとき、そこには二つの考え方があるように思います。
ひとつは、少々無理をしても頑張って限界突破し、乗り越えていく。
ひとつは、自分の限界を明らかに超えていると感じたなら、上司に訴えるなり、仕事を辞めるなりして、その場から撤退する。

いずれを選ぶべきか、次のような基準を持って考えてみるといいのではないかなと思います。
自分の力を10として、2割増しの12くらいまでのレベルの仕事であれば挑戦していく。
そのことによって、そのとき12だったレベルのものが、次回には自分の10の力となります。
人はそうして成長していくものでもあります。

では、15くらいのレベルの仕事であればどうか?
この場合、乗り越える前に自分の心や体が悲鳴を上げる可能性が高いように思われます。
概ね自分の力に対して、2割増しくらいまでは乗り越えられる可能性があります。
しかし、それを超えると仕事レベルの大きさに圧倒されてしまい、乗り越えようという気力そのものが失せてしまったり、空回りしたりするようになります。
すると、うつ病になったり、自律神経のバランスを崩して動悸や息苦しさ、めまい、嘔気、胃痛、肩こり、頭痛、倦怠感、不眠などの身体症状をきたしたりするようになります。

ですから、その見極めが難しいところであり、こうした基準を持ってみるとどうかと思うのです。

また、家族を抱えた40才以上の男性のような方になると、もうひとつ難しい問題があります。
    「確かに限界というのはわかった。
    けれども、会社はそうしたことを理解してくれない。
    もし仕事ができないなら辞めるしかないが、この不況のときに40才を超えた自分を雇ってくれるところなど殆どない。
    妻や子どもといった家族もいるし、無理してでも頑張るしかない」
本当にその通りです。
自分であっても同じ立場で、心や体の法則への理解が不十分であれば、きっとそのように考えるだろうと思います。

ただそこには「まだ何とかなる」という心や体への驕(おご)りがあるのも事実です。
明らかに限界を超えた仕事を続け、心や身体が限界を超えているというサイン(症状)を出しているにもかかわらず、無理をし続けたときには取り返しのつかない状態になることがあります。
それがうつ病による自殺や、ガンや心臓病、脳梗塞などの成人病です。
一旦、このような状態になると簡単には健康を取り戻すことができず、ときには生命に関わることもあります。
特に40才を超えると若かったときのような柔軟性がなくなり、心も身体もすぐには回復せず、疲労を蓄積するようになり、不可逆的な病気になる恐れが非常に高くなります。
そこまで行くという事実を知ったなら、勇気を持って真剣に「自分の身は自分で守る」ということを考えなくてはいけません。

自分自身のことを振り返ると、今から十数年前、大阪の総合病院で内科医、心療内科医として働いていたことがありました。
このときは心の医療だけではなく、内科医として慣れない身体の医療や救急医療に携わらなくてはならず、明らかに自分のキャパシティを超えていました。
夜は眠れず、朝は吐き気に襲われ、病院が近づいてきただけで涙が出そうになります。
何度も辞めようと思って、夜な夜なパソコンを開き、インターネットにつないでは別の職場を探していたこともあります。
けれども、ここで私が出した結論は
    「辞めることは可能だけれど、まだもう少し粘れるのではないか。
   であればもう少し粘って頑張ってみて、この病院でも十分にやっていける自分になってから辞めてやろう。
    ただ辛くてしんどいからという理由で辞めるのではなく、『やろうと思ったらやれる。けれども、自分には合っていない職場だから辞める』というふうになってやろう」
そう決意して、その後も頑張り続けました。

1年半くらいして、「やれと言われれば、あと5年くらいはできるかな」と思うようになったところ、ちょうどその頃に異動の話が出てきて、その半年後には異動することになりました。
今、振り返ってもあそこで辞めるのは自分の課題から逃げている面があり、粘って残り、その課題を何とか乗り超えたことには意味があったなと思います。

一方、数年前まで働いていた滋賀県にある精神医療センターは、とてもいい職場でした。
しかし、他の病院では診ることが困難と言われたような難しい患者さんを何人も抱えるようになり、また、他府県からも治療を求めて私のところに来て下さる患者さんが徐々に多くなり、外来の日は朝の8:30から夕方の17:00まで休むことなく診療することもしばしばでした。
すると、勤務して5年目くらいから、異常な肩こりや腰痛に悩まされたり、食べたものが喉に逆流してくるようになったり、免疫力が落ちて歯周病になったり、毎日のように蕁麻疹が出たりするようになってきたのです。
その症状は1年ごとに悪化していきました。

以前の病院とは違った意味で、多大な仕事量を抱え込み、自分のキャパシティを超えていました。
私自身はそこまで自覚していなかったのですが、同僚の先生には他の先生の3倍は仕事をしているとも言われていました。
今回の場合、私は「自分の身は自分で守る」ということを考えました。
その職場でいろいろと努力し、仕事を負担なくこなせるように創意工夫をしても、仕事量は増える一方で、体調不良は持続し、徐々に悪化する。
いつまで経っても自分の許容量に収まらない現状に、ここは撤退し、新たなステージに挑戦すべきだと考えました。
その結果、いろいろな過程を経て、開業するに至ったわけです。

このように自分のキャパシティを超える仕事を抱えたときには、自分の課題として乗り越えるべきか、自分の身は自分で守ることを優先して撤退すべきか、二つの考え方があります。
自分が今どの状況か、よく見極める必要がありますが、取り返しがつかなくなるのは自分のことよりも会社や周りの人のことを気にかけて、無理に無理を重ねたときです。
仕事をするにあたっては
    「自分の身は自分で守る」
が鉄則だと思います。
「仕事あっての人生」でもあるかもしれませんが、究極は
    「人生あっての仕事」
ではないかと思います。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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