コラム

 公開日: 2011-02-07  最終更新日: 2011-05-25

悪の心の発生原因②

映画「スターウォーズ」シリーズには、約30年前に封切られたルーク・スカイウォーカー、ダース・ベイダーを主とした3シリーズと、約10年前に封切られたアナキン・スカイウォーカーを主とする3シリーズがあります。

アナキン・スカイウォーカーを主とする3シリーズ、特にエピソード2とエピソード3を見たとき、このシリーズの奥深さを感じられるように思います。
それは本来、愛と正義の心を持った人間がいかにして悪に落ちていくかということを鮮やかに語っている映画だからです。

アナキン・スカイウォーカーという青年は、仏教の視点から見た六大煩悩(「貪(とん)(貪欲)」「瞋(じん)(瞋恚)」「癡(愚痴)」「慢」「疑」「悪見」)のすべてに見事に囚われ、最後にダークサイドである悪の心の世界に落ちていきます。

貪(貪欲)、貪(むさぼ)りの心とも言いますが、アナキンは幼少時より無条件に自分を愛してくれる母親の愛を何よりも求め続けます。
その結果、奴隷である母親をいつか救いたいという思いで、ジェダイの道を志します。
その愛を求める心は、やがて妻であるパドメへの愛と変わります。
ただアナキンの愛は、ジェダイの目指す無償の愛とは異なるものです。
自分を愛してほしいという貪りの心からくる愛です。
その心は、いずれ愛を失うことへの恐れの心につながります。
その恐れが、ダークサイドにつながるのです。
アナキンは悪に決してつながることのない無償の愛ではなく、貪りの心からくる愛の心を持つがゆえに、恐れの心に囚われ、それをダークサイドの帝王であるシスに利用され、悪に落ちていくのです。

しかし、シスの罠はそれだけではありません。
アナキンの心の中にある瞋(瞋恚)、怒りの心を増幅させます。
アナキンには、もともと自分を認めてほしいのに認めてくれないという怒りの心がありました。
その怒りの心は、やがて自分を無条件に愛してくれた母親を失ったときに爆発します。
母親を死に追いやったタスケン・レイダーに復讐するだけでなく、怒りに身を任せ、その一族の女性や子どもまで皆殺しにします。
シスはその心の弱さが故に陥った過ちと怒りの心を狙い、アナキンをダークサイドに引き込みます。
エピソード3の最初の場面で、手も足も出なくなった丸腰のドゥークー伯爵に対して捕えるのではなく、腕を切られた復讐なのだからと言って殺すように指示するのです。
結局、アナキンは怒りに身を任せてドゥークー伯爵を殺し、そのようにして、憎しみの心が増幅されていくのです。
この憎しみの心が、深くダークサイドにつながっていくのです。

癡(愚痴)、愚かな心とはここでは、本当に愛と正義に生きるにはどう行動すべきかがわからなくなるその判断能力の未熟さ、愚かさのことを言います。
アナキンには、もともと愛と正義の心がありました。
しかし、自分を無条件に愛してほしい、認めてほしいという思いに囚われ過ぎたが故に、判断能力を失っていきます。
その最たるものは、パルパティーン議長(正体はシス)だけが自分を完全に認めてくれるということで、彼の疑わしい言動に対して、正確な判断ができなくなっていく姿です。
アナキンの気持ちは人間としてわかるところがありますが、客観的に見ていると、とても愚かです。
そして、力があるがゆえにこの愚かさが、宇宙を巻き込む取り返しのつかない道を歩ませることになるのです。

4つ目の煩悩である慢、自慢する心と増上慢については、あまりにも明らかです。
師であるオビ=ワンとの会話の中でも、師への礼の心よりも「あれは僕がやったんですよ」という自慢する心が優先しています。
また、周囲のジェダイからは心の未熟さを指摘され、パダワンからジェダイへの昇格を止められたことに対して自ら反省するどころか、むしろ「なぜ自分を認めてくれないんだ」と恨みの心を持つようになります。
その裏には自分は最強のジェダイだと自負する自惚(うぬぼ)れの心、増上慢があります。
それが恨みの心を生み、また、この心がダークサイドにつながっていくのです。

やがてアナキンの心の中には疑、疑いの心が芽生えてきます。
自分を認めてくれない他のジェダイへの疑いの心。
さらには、本当は誰よりもアナキンのことを愛して認めている師のオビ=ワンに対してさえ、「オビ=ワンが自分のことを認めてくれないから悪いんだ」と言いがかりのような被害妄想を抱き、疑いの心を持ち始めます。
正義の戦士であるオビ=ワンやヨーダをはじめとするジェダイに疑いの心を持ったとき、その心はもう殆どダークサイドの術中にあり、悪に陥っています。

そこで、シスがとどめを刺すために最後の罠を仕掛けます。
シスはジェダイのリーダーであるメイス・ウィンドウに追い詰められる中で、「自分が死ねば、パドメを救えなくなる」と言って、アナキンの心の最大の弱点である愛を失う恐れの心につけこみます。
その結果、アナキンはメイス・ウィンドウの腕を切るという暴挙に出てしまい、メイス・ウィンドウは死に至ります。

我に帰り、とんでもないことをしたと落胆するアナキン。
その落胆の心こそが、完全にダークサイドに入ったことを示す心なのです。
そこで、シスは六大煩悩の最後の悪見でアナキンを洗脳します。
悪見、それは悪の論理に基づく全く間違ったものの見方であり、悪を正当化させるものです。
「正義は自分たちにあり、反乱を起こしたのはジェダイだ。
だから、ジェダイを一掃し、シスを頂点とする独裁国家を作ることで宇宙の平和を取り戻すのだ」と。
ある意味、もっともらしくも聞こえますが、それはまさに全く誤った見方です。

アナキンは悪の権化とも言えるダース・ベイダーとなります。
ムスタファー星で、ダース・ベイダーはオビ=ワンと最後の戦いをしますが、このときのダース・ベイダーの言動は被害妄想に基づく(オビ=ワンは「シスらしい決め付けだ」と言います)全くの悪見で、正常な判断能力を失っています。
その結果、まさにその愛を守るために悪にまで陥った妻のパドメの首を自ら絞め、死に至らしめます。
その自分がとった行動に対しては自己責任を感じるどころか、オビ=ワンのせいにして、最も自分を愛し、信じてくれたその師に対しても、戦いを挑むのです。

本当は愛と正義の心のある青年がいかにして悪に陥っていくのか、これほどに見事に描いた映画は他にないような気がします。

そして、このシリーズはその後、息子のルーク・スカイウォーカーとダース・ベイダーの親子の戦いへと話が移っていきます。
ルークは、ダース・ベイダーが父だと知ったとき戦おうとしません。
シスに追い詰められ、殺されんとする中でも、ずっと父の中にある自分への愛と正義の心を信じ続けます。
その心によって、悪として生きてきたダース・ベイダーの心の奥にあった本当の自分、正義と愛に生きるアナキン・スカイウォーカーの心が目覚めます。
この瞬間、アナキン・スカイウォーカーは心身ともに最強のジェダイとなり、どのジェダイも倒すことができなかったシスを倒します。
自分がどのようになろうとも無償の愛で愛と正義の心を信じつづけた息子のルークの心が、父であるダース・ベイダーの心の奥にある本当の自分の心を目覚めさせるのです。

「スパイダーマン」と「スターウォーズ」という映画は、悪の心の発生原因を教えてくれているような気がします。
    「悪というものは必ずしも最初から悪ではなく、愛ゆえに悪に陥ることがある。
    そこには自我に基づく小さな愛に囚われてしまって、大きな幸福という視点から見る目を見失ったことが、愛が悪にすり替わっていく要因となる」
と。

また、これらの映画はもうひとつのことも教えてくれています。
それは、
    「悪から人を救うのは『許す心』であり、相手の心の中にある『本当の自分を信じる心』である」
と。
それは、私たちの周りにある人間関係における様々な心の問題にも通じることではないかと思います。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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