コラム

 公開日: 2010-08-29 

不安?…それとも、うつ?②-「うつ病への対応⑭」-


うつ病が長引いている方を見ていると、その中には
    「今の状態は、本当にうつ状態だろうか」
と思われる方がいます。

以前、こんな方がいました。
その方は50才代の男性でしたが、役職が上がって多くの人を指導する立場になったところ、そのストレスからうつ病になりました。
あるクリニックで抗うつ薬による薬物治療と自宅療養を続けていましたが、2年以上経っても良くならず、私のところに来られました。
お話を聞くと「気分が落ち込み、やる気がしない」と言われます。
その言葉をそのまま受けとると、明らかにうつ状態です。

しかし、その方の表情や態度を見ていると、自信がなさそうには見えるのですが、ふとしたときには笑顔を見せるなど、どこか余裕があるように見えます。
一日の生活を聞くと、「毎日することがないから、釣りに行っている」と言われます。

「以前はうつだったかもしれないけれど、この方の今の状態の本質はうつだろうか?」
そう思い、もう少し詳しくお話を聞くと、仕事に戻り、また同じ役職で働くことに対して、恐怖感と言ってもいいくらいの強い不安感を持っていることがわかりました。
これらのことを総合的に見て、
    「この方の今の状態の本質は、この不安感なんだ。
    この不安からうつのような症状を訴えているんだ。
    だから、漠然とうつに対する治療だけをやっていても、よくなる見通しは持てない。
    この不安感が問題であることを知っていただき、向き合ってもらうことが必要だ」
そのように思いました。

そこで、この方には次のようにお話をしました。
    「今の状態はうつと言えばうつだけれども、うつ病そのものは治ってきているように思います。
    むしろ問題なのは、もとの役職に戻ることへの不安感なんだと思います。
    このまま、ただお薬を飲んで、休んでいるだけではおそらくいつまで経っても変わらないと思います。
    この不安感をいかにして克服するか。
    職場と話し合って、その役職を外してもらってはどうですか?
    またその不安が少しでも軽減するように、不安を和らげるお薬を出しましょう。
    けれども、最終的にどうするかは自分にかかっています。
    私から見て、自分で無理だと思えば確かに無理でしょうけれど、実際、役職を外しての仕事であれば、やってみればやれる可能性は高いと思います」

こうしたお話をした後も数ヶ月~半年くらいの間、その方は不安感や恐怖感と葛藤していました。
最終的にこの壁を破れるかどうかは本人にかかっていますから、その壁を破るための本人の主体性を引き出すように診察ではいろいろな角度から話し続けました。

その結果、このまま仕事に行かなければ来月には退職しなければならないといったその直前、この方は仕事に行き始めたのです。
もちろん、とても大きな不安感は持っていました。
それでも、最初に見通していた通り、仕事に行くという行動をすればするほどにその不安感は和らぎ、うつ症状を訴えることもなくなってきました。
その後、一日も休むことなく仕事を続け、すべての薬は必要なくなり、治療は終了しました。

この方は50才代の男性で当時、まだ学校に通う子どもたちもいましたから、あのまま仕事に行けなければ、家族の生活が破綻しかねない状況でした。
心の状態の本質がうつではなく不安にあると見極めたことが、人生そのものに影響する判断だったのです。

うつ病が長引いている人の一部には、この方と同じように最初はうつだったけれども、そのうちにうつは回復し、その心の本質が不安になっている方がいます。
その不安からうつ症状を訴えているだけの人がいるのです。

こうした方には、今の問題が不安であることを知っていただく必要があります。
そして、この不安は休養しているだけでは解消されません。
リハビリなどの行動をしていくことが最も有効な治療法です。

以前に別のコラムで述べたように、頭と心はしばしばつながらないことがあります。
しかし、心と行動はつながっています。
心が変われば行動することができ、行動すれば心が変わります。
まず自らの心の問題と向き合い、勇気を出して一歩行動することが、この不安への処方箋です。

これまでにこうしたうつと不安の見極めで、見事に回復した方は何人もいます。
一方、見極めはできてもこの不安感を乗り越えての一歩の行動をとることができずに状態が停滞している方もいます。
ただこの見極めができずに、単に「うつ病ですから、まだ休養が必要ですね」と言っているだけでは良くならないことがあり、そのためにうつが長引いていることもあります。

大事なのは人間を見て、心を観て判断することだと思います。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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