コラム

 公開日: 2010-07-30 

何を信じるのか?


一人ひとりの患者さんの心と向き合っていると、ふとこの人は何を信じているのだろうかと思うことがあります。

何を信じているのか?

今日も拒食症の女性とこんなふうな話をしました。
    「あなたは何を信じているの?
    私かな?
    それとも拒食症という病気の自分のささやきかな?」

拒食症を治すためにはご飯を食べなければいけません。
けれども、ご飯を食べようとすると、
    「ご飯を食べるとどんどん太ってしまうよ。
    そうすると、あなたのことなんて誰も振り向かない。
    病気になる前だって、そうだったでしょう?
    病気だから、やせたから、みんな心配してくれるようになったのでしょう。
    先生にだまされたらダメだよ。
    あなたなんて何の価値もないんだし、食べて太ってしまったら、きっと見捨てられるよ」
病気の自分の声がそんなふうにささやきます。

すると、本人も
    「そうだよね。
    やっぱりご飯を食べるのは怖い、怖い」
そう思って、食べられなくなります。

治療者である私は言います。
    「そんなふうに病気の心の声に従って、結局はどうだった?
    常に体重や食べることにおびえ続け、落ち込んだり、孤独感に襲われたり、イライラしたり、本当の幸せはなかったはずだよ。
    病気の自分の声に従えばこのままの状態がずっと続く。
    いや、必ず今よりももっと苦しい世界に落ちていく。
    一方、私が何を言っても、本当に大丈夫かなと不安でしょう。
    でも、もし私の言う通りに頑張ってくれれば、病気を治すだけじゃない。
    必ず、本当の自分を取り戻し、幸せになっていけるように導いていってあげる」
そうすると、本人は治療者を信じたいと強く思います。
しかしなお、病気の自分がささやく脅しに翻弄され続け、最終的には病気の自分の声に耳を傾けてしまいます。

    「あなたは何を信じるの?」
私は思わず、そう訊ねてしまいます。
病気の自分の声を信じれば、さらに病気は深まります。
本当の自分の目覚めに導こうとする治療者の声を信じてくれれば、病気は離れ、本当の自分に目覚め、幸せになっていきます。

最初が勝負です。
なぜなら、最初に信じて治療者の言う通りに頑張ってくれれば、必ず成果が出てきます。
すると、
    「本当に楽になってきた。
    今までだったら、絶対に考えられない自分になってきた。
    本当によくなるんだ」
そのように実感してくれるようになるので、ますます治療者を信じるようになります。

ここまでくれば、治るのは時間の問題です。
治療者である私はゴールまでの道筋が見えるので、本人が素直にその道を進んでくれる限り、いずれゴールに到達します。
本当の自分に目覚め、病気の世界から離れていってくれるのです。

子どもが不登校になったり、暴れたりしていても同じです。
親である自分が何を信じているのか?
    「この子はこのまま社会に適応できずに惨めな人生を送るのではないだろうか?」
子どもの幸せを願いながら、自らの不安から思わずこうした不幸な未来を信じてしまうのです。
信じるのは、「へへっ、おやじ、おふくろ。心配しなくてもおれが老後をみてやるから」などと言って、友達に囲まれ、幸せな家庭を築き、一生懸命に働く子どもの姿です。
そんな姿を心の中にイメージして、思わず微笑むことです。
親が子どもに押し付けるのではなく、ただ黙ってそんなふうに信じていてくれたなら、どれだけ大きな子どもの心の光となるでしょう。

治療者も、親も、そして本人も打ち勝たなくてはなりません。
病気の自分の声に、そして、不幸な未来が来るのではないかという不安や恐怖感に…。
本人が打ち勝つのはとても大変ですが、親だって、治療者だって、打ち勝つのは大変です。

でも、シンプルに考えれば、
    「あなたは何を信じるのか?」
ただこれだけのことです。

あなたの人生を何に賭けるのか?
病気の自分の声や不安、恐怖感に打ち勝って、本当の自分の目覚めによって導かれる生き生きとした未来を信じることに賭ける。
自らが患者であるときには、本当の自分に導かんとする治療者を信じて賭ける。
この1点を突破できれば、未来は開けるのです。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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