コラム

 公開日: 2010-07-10  最終更新日: 2010-07-22

人前でうまく話せない


私は今、講演することがよくあります。
    『5万人くらいの聴衆の前で講演してみたい』
そんな思いも抱いています。

けれども、学生時代の自分を振り返ると、それは信じられない姿です。
小学校から高校まで、私はホームルームの時間など自分の思いを発表する場で、発言したことが一度もなかったように思います。
自由な意見を語ると、
    「みんなからどう思われるだろう?」
    「バカにされるんじゃないだろうか?」
そんな思いに囚われて、先生にあてられてもずっと下を向いたまま、「もう座ってよろしい」と言われるのをひたすらに待っていました。

また、慣れない相手との会話も苦手でした。
目を見て話すことなど決してできず、相手の後ろの方をぼんやりと見たり、下を向いたりしたまま、いつも焦燥感にとらわれて話をしていました。

そんな私が大学時代、テニス部のキャプテンになりました。
これは大変なことです。
今まで人前で話せなかった人間が、いつも50人以上の部員の前で話をして、自分の意見や考えを述べないといけなくなったのです。

最初は異常な緊張感がありました。
50人以上の部員が目の前にいて円陣を組んでいても、視線はじっと前の一点を見つめ、動かすことはありません。
視線を動かすと、一人ひとりの表情が目に入ってきて、「どんなふうに見られているだろうか?」という思いが急に広がり、頭の中が白紙になってしまいます。

話す内容は、その場で考えながら話すなんて絶対に出来ませんから、「みなさん、こんにちは」という言葉から始まって、一字一句全部ノートにまとめて、それを読み上げていました。

それでも、このテニス部の経験は私にとって大きなトレーニングになったのだと思います。
とりあえず知っている人の前では、ある程度の話が出来るようになりました。

しかし、見知らぬ人の前では別です。
医者になって初対面の人たちの前で講演する機会を持つようになると、これが新たなる大きなプレッシャーとなりました。

講演の依頼をされるときには、少なくとも1ヶ月以上前に話をもらわないと受けることができません。
なぜなら、話す内容を一字一句すべて原稿にまとめないと話せないからです。

それだけの準備をしても、当日の講演が近づいてくると、そのプレッシャーから吐き気がひどくなり、咳が止まらなくなるといったことがよくありました。

そんな私でしたが、医者になって7~8年経ったころから講演依頼がとても多くなってきました。
1ヶ月以上の準備期間がほしいと思っても、それ以上の講演依頼があります。
「どのようにすれば短時間で講演のまとめをして、少しでも多くの人の役に立つ講演ができるのだろうか」と考え、創意工夫することを余儀なくされました。

私自身、段階的に進歩してきたように思います。
ただその過程でありがたかったのは人の言葉でした。
研修医時代に緊張して必死で話した内容について、ある先生がなにげなく
    「先生はまとめがうまいなあ」
と言ってくれたその一言が心の支えになりました。また、
    「先生がやらなくてどうするの?」
と自分では全く自信がないのにもかかわらず、「先生ならできるはず。できて当然」という言葉もプレッシャーになるというよりは、自分の価値を高めてくれる言葉になりました。

そして、私自身の心の中における一番大きな変化はこうしたことだったと思います。
例え何百人いようが、何千人いようが、何万人いようが、
    「たったひとりでもいい。
     何かその人の心に残り、感動を与えることができたら…。
     何かわずかなりとも、その人の役に立つお話ができたら…」
そう思って話すようになったことです。
この思いを持つようになってからは自分がどのように評価されるだろうかという意識が薄らぎ、どれだけたくさんの人がいても、そこにおられるたったひとりの人に話しかけるように話すようになりました。

今や時間のないときには講演内容の目次さえリストアップすれば、それだけで話をすることもできます。
しかも、ひとつの講演をすると必ずと言っていいくらいに、そこに来て下さった方が、別の講演を依頼して下さったり、患者様として受診して下さったりします。

もちろん、人の目を見て話すこともできるようになりました。
これも同じです。
相手が自分をどう見ているかを考えるよりも、
    「この人の魂を見つめよう。
     この人のダイヤモンドの心を見つめよう。
     この人の魂に光が伝わるように話をしよう」
このように思うと、じっと相手の目を見つめることができるようになりました。

人の心の中には、どんな可能性が眠っているのかはわからないものです。
本当の自分を取り戻すための正しい方向にものごとを考えられるようになると、眠っている可能性を引き出すことができます。
人前で話せなかった人間が、人前で話すことを得意とするまでになることもあるのです。

この記事を書いたプロ

いずみハートクリニック [ホームページ]

精神科医 泉和秀

兵庫県神戸市東灘区岡本2-7-3 ピークス岡本3F [地図]
TEL:078-453-8010

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