さまざまな分野の専門家をご紹介するマイベストプロ神戸が、ひょうごを拠点に活躍する専門家同士の対談をお届けします。
二人の専門家がそれぞれの視点で話題・注目のテーマについて議論を交わします。
今回は「保険のプロ」と「人事コンサルティングのプロ」の対談。テーマは「企業のメンタルヘルス対策について」です。
メンタルヘルスとは、「精神にかかわる健康」のこと。
企業にとって、職場における従業員のメンタルヘルス対策が求められるようになったのは、まだまだ最近のことかもしれない。
しかし今、従業員のメンタルヘルスが、企業の存続さえも揺るがしかねない大きなリスクとなっていることをご存知だろうか?
今回は保険の専門家である柴崎実プロと、人事・労務の専門家である社会保険労務士の粂ゆかりプロに、その危険性と対策について議論をしてもらった。
粂 業務上のストレスが原因で精神障害になり労災請求されるケースが増えてきています。中でも「うつ病」については、ここ10年ほどで広く知られる病気となりました。
今、20歳代から30歳代の若い世代で、「新型うつ」と呼ばれる新しいタイプのうつ病が増えており問題となっていますが、世代間のギャップから現場の担当者はその対応にとても苦慮しているようです。一般的にこれらの若い世代はあまり叱られることもなく育っており、他人の言動に傷つきやすいと言われています。また仕事についても決められたマニュアルを必要とし、指示を待って動く「受け身型」の傾向があります。
一方、40歳代以降の世代は、「仕事は見て覚えるもの」と教育されてきましたので、この間のギャップに摩擦が生じるわけです。教えられる側だけではなく、教える側も部下や後輩とのコミュニケーションに戸惑い、メンタル不調に陥っています。メンタルヘルス対策は企業の重要なリスク管理の一つなのですが、「具体的な対応策がわからない」といった経営者の声をよく聞きます。リスク管理研修、管理職研修などを通してメンタルヘルス教育の機会を設けることが必要だと考えています。
柴崎 うつ病は国際的に見ても広まっているようですね。怪我を補償する保険については外国の商品の方が充実しているのですが、「うつ病に関する相談にも乗りますよ」という保険が人気を博しているようです。日本国内では、労災の相談件数が全国で1181件に上っています(2010年度)。一昔前だと、「足場から転落した」といった、現場の作業員などのいわゆる「ブルーカラー」からの相談が多かったのですが、最近ではうつ症状を訴える「ホワイトカラー」が急増しています。
粂 不幸にもうつ病が原因で自殺にいたるケースも増えています。うつ病の発症が業務上の原因によるものとされると、訴訟となり遺族から慰謝料や高額な賠償を求められることも考えられますが、訴訟に対して企業としてはどのような対応策を考えるべきでしょうか?
柴崎 うつ症状が原因で自殺・死亡を招いたり、高度な後遺症が残ると、その賠償金は5,000万円から1億円にも上ります。裁判自体は結審することなく、示談となることがほとんどですが、支払い命令に応じて支払えるかどうかとなると、中小企業を中心に多くの企業が賠償金の支払いに困窮するのではないでしょうか。賠償金を支払った結果、会社が潰れてしまう、と言っても過言ではありません。使用者賠償責任保険などがありますが、加入していない企業も多い。直近の資金繰りばかりに意識がいき、リスクマネジメントができていないと言わざるをえないでしょう。
粂 これまで従業員から裁判などを起こらなかったとしても、今後起こるかもしれません。
こういった健康上のリスクマネジメントにおいては就業規則の整備は欠かせません。
特に従業員の休職や復職に関する規定は、会社の実情に合わせ細かく規定する必要が有りますが、「勤続年数1年以上であれば休職期間3カ月」といったように簡単に記載されてある就業規則を多く見受けます。
例えば、従業員を増やせない中小の企業では、私傷病(労働者のけがや病気のうち業務に起因しないもの)で休んでいる人の業務を他の従業員が行うこととなり、時間外労働が増えます。そしてそれが過重労働になると、他の従業員の体調やメンタルヘルスに悪影響を及ぼすという、負のスパイラルを生むことにもつながります。ですので、就業規則では休職事由や休職期間、復職の手続き、そして休職期間満了の場合の離職手続きについてしっかりと規定しておく必要があります。
柴崎 企業にとっての最大のリスクは倒産です。メンタルヘルスをめぐる賠償金の支払いによって、企業が潰れてしまうケースも実際に起きています。
従業員が権利を主張し始めた今、「何でも裁判」という風潮もあって訴訟の数は右肩上がりです。とりわけ販売会社や商社は要注意です。
励ますつもりがプレッシャーとなり、メンタル不調を訴える従業員が後を絶ちません。これらの問題は、セクハラやパワハラなどと同様に、受け手によって捉え方が変わるデリケートなものです。
一番の解決策は、社内のコミュニケーションを活性化させること。その上で、あくまで「セーフティネット」として保険の存在があると思います。
粂 保険が「セーフティネット」であれば、就業規則は「予防」と位置づけることができます。
うつ病で休職をした従業員が、在職中ではなく退職後に労災申請を行うケースも少なくありません。
労災の申請があれば労働基準監督署は受理し、認定のため事業所の調査を行います。そうなると調査を受ける事業所の営業活動に支障をきたすことも懸念されます。従業員のメンタル不調には敏感に反応して、そのリスクが内在するのであれば、就業規則はもとより、労働時間管理、職場環境の見直しなど早期の対応が必須です。
柴崎 労災の申請件数が増えている中、リスクが自社のどこにあるかを企業側も考えなければなりません。
粂 従業員の健康管理は企業のコンプライアンスです。全社的に内在するリスクを見極めた上で、予防をしていくことが大切です。
柴崎 私たちも無料で就業規則の診断などをサービスで行っておりますが、社会保険労務士の先生とのタイアップは必要ですね。
粂 それぞれの専門家がその専門性を生かして連携を強めることが、企業を守ることにつながると思います。
従業員のメンタルヘルス対策は、企業の存続にあたり「すぐそばにあるかもしれない危機への対策」と定義付けすることができるだろう。倒産にもつながりかねないリスクを回避するためには、「予防」としての「就業規則の見直し」と、「最後のセーフティーネット」としての「保険の加入」の二重の対策が求められる。その前提には、メンタルヘルスなどのリスクに対応するための「リスクマネジメント」に目を向けることの重要性があった。
保険のプロ
柴崎 実 さん しばさき みのる
神戸市垂水区に事務所を構える損害・生命保険代理店「アシスト」の代表。これまで30年以上も保険に携わり、取り扱う保険の種類は多岐にわたる。特に法人向けの賠償保険の取り扱い数が多く、建設系の保険契約が半分以上を占めている。企業のリスクマネジメントにも造詣が深く、日本リスクマネジメント学会の会員でもある。保険を通して、企業をリスクから守るため尽力している。
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人事コンサルティングのプロ
粂 ゆかり さん くめ ゆかり
神戸市中央区に事務所を構え、社会保険労務士として10余年のキャリアを生かし、中小企業の労務管理のアウトソーシングに対応するほか、人材採用や育成のためのコンサルティングを行う。また、特定社会保険労務士の資格を有しており、「労使トラブル」や「労働災害事故」の分野に強い。それらの諸問題を未然に防ぎ、企業リスクに正しく対応できる「安心した職場環境」を作り上げるための支援をしている。
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